東京地方裁判所 平成6年(ワ)19589号 判決 1995年10月25日
原告
五藤光子
ほか一名
被告
仲間良誠
ほか一名
主文
一 被告仲間良誠は、原告五藤光子に対し、金四八四万九〇〇二円、同櫻井佐多子に対し、金三五二万九〇〇二円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日動火災海上保険株式会社は、原告らの被告仲間良誠に対する判決が確定したときは、原告五藤光子に対し、金四八四万九〇〇二円、同櫻井佐多子に対し、金三五二万九〇〇二円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
五 この裁判は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
一 被告仲間良誠は、原告五藤光子に対し、金一一二四万三〇四三円、同櫻井佐多子に対し、金九九三万三〇四三円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告日動火災海上保険株式会社(以下「被告日動火災」という。)は、原告らの被告仲間良誠に対する判決が確定したときは、原告五藤光子に対し、金一二四万三〇四三円、同櫻井佐多子に対し、金九九三万三〇四三円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件事故の発生
1 事故日時 平成五年二月一八日午後零時一〇分ころ
2 事故現場 神奈川県相模原市富士見二―八先路上
3 被害車 普通乗用自動車(相模五〇き三一〇五)
運転者 訴外亡五藤宏(以下「訴外宏」という。)
4 被告車 大型貨物自動車(相模一一な八四〇一)
保有者 被告仲間良誠(以下「被告仲間」という。)
運転者 被告仲間
5 事故態様 被告が、被告車を運転して走行中、先行する被害車の右後部に被告車の左前部を追突させ、さらに、被告車前部を被害車右側面に衝突させた結果、被害車を対向車線に進出させて、対向進行してきた訴外澤登正照運転の普通貨物自動車に衝突させ、訴外宏は頸髄損傷の傷害を負い、同日、訴外宏は、右傷害により死亡した。
二 責任原因
1 被告仲間は、被告車の保有者であるから、自動車損害賠償保障法三条により、損害を賠償する責任を負う。
2 被告日動火災は、被告仲間との間に、被告車を被保険車とする自動車保険契約を締結していたから、原告らの被告仲間に対する判決が確定したときは、自動車保険契約に基づき、保険金を支払う義務がある。
三 相続
原告五藤光子(以下「原告光子」という。)は訴外宏の妻、原告櫻井佐多子(以下「原告櫻井」という。)は同人の子であり、同人の相続人であるから、原告らは、各二分の一づつ、訴外宏の損害賠償請求権を相続した。
第三損害額の算定
一 訴外宏の損害
1 逸失利益 一四四一万八〇〇五円
(一)(1) 確定申告によれば、(甲二の一及び二)、訴外宏は、本件事故当時、年間二六七万四三九一円(専従者控除前)の所得を得ていたことが認められる。
(2) ところで、原告らは、訴外宏は、ピアノ教室を経営しており、右確定申告額を上回る収入があつたことは明らかであるから、少なくとも平成四年賃金センサス第一巻第一表の産業計男子労働者学歴計六〇歳から六四歳の平均賃金である四二六万八八〇〇円の収入を得ることができたと主張し、甲四は、訴外宏が、ピアノ教室の収支を記載したメモであり、これには、収入として合計三七二万四〇〇〇円、支出として合計三七万〇九五五円が記載されている外、訴外宏は、ピアノ教室の生徒から、月謝の外、発表会の際などに謝礼も得ていたので、訴外宏が、右確定申告額を上回る収入を得ていたことは明らかである旨の、右主張に沿う原告光子の本人尋問における供述も認められる。
しかしながら、原告光子本人尋問の結果によれば、訴外宏の確定申告の際、甲四を浄書した資料を津久井町商工会に提出し、それを元に甲二の一及び二の確定申告がなされているのであり、このような確定申告の経過に鑑みても、訴外宏の所得に関して、甲二の一及び二の信用性は極めて高いと認められること、原告光子は、訴外宏のピアノ教室の経営には全く関与しておらず、ピアノ教室の経営の詳細は全く把握していないため、訴外宏がピアノ教室でどれだけの収入を得、どのような経費をどの程度使用していたか等について、原告光子は全く知らないのであり、元々、原告光子は、訴外宏が確定申告額を上回る収入を得ていたはずであると推測を述べているに過ぎないことが認められ、これらの事実によれば、原告光子の前記供述は採用できない。
よつて、訴外宏が、前記確定申告を上回る所得を得ていたとは認められず、他に、訴外宏が、少なくとも平成四年賃金センサス第一巻第一表の産業計男子労働者学歴計六〇歳から六四歳の平均賃金である四二六万八八〇〇円の収入を得ていたと認めるに足りる証拠はないので、原告らの主張は理由がない。
(3) 以上の次第で、訴外宏の本件事故時の所得は、年間二六七万四三九一円と認めるのが相当であり、訴外宏は、本件事故時から平成五年の六三歳男子の平均余命である一七・八八年の約二分の一の九年間、年間二六七万四三九一円の収入を得ることができたものと認められる。
(二) 次に、甲三、九によれば、訴外宏は、本件事故時六三歳であつたが、既に国民年金(老齢基礎年金)の受給資格を得ており、満六五歳に達した時以降は平均余命に達するまでの期間、毎年六〇万五〇〇〇円の国民年金(老齢基礎年金)を受給し得たと認められる。
ところで、昭和六〇年法律第三四号による改正前の国民年金法に基づいて支給される国民年金(老齢年金)は、当該受給者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであると共に、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められるから、その逸失利益性が認められるところ(最高裁平成元年(オ)第二九七号、同平成五年九月二一日第三小法廷判決)、右改正後の国民年金法に基づく国民年金(老齢基礎年金)も、その目的、趣旨は改正前の国民年金(老齢年金)と同様であるので、その逸失利益性は認められると解される。
そして、国民年金(老齢基礎年金)を未だ受給していなくても、既にその受給資格を得ている場合は、その者は、他人の不法行為により、満六五歳に達すれば、確実に受給し得たはずの国民年金(老齢基礎年金)を受給し得なくなつたのであるから、国民年金(老齢基礎年金)を受給している場合と同様に、その逸失利益性は肯定されるべきである。
したがつて、訴外宏は、本件事故によつて、満六五歳から平均余命の一七・八八年間、毎年六〇万五〇〇〇円の得べかりし利益を喪失したものと認められる。
(三) 以上の次第で、訴外宏の逸失利益は以下のとおりとなる。
(1) 死亡時の六三歳から国民年金(老齢基礎年金)受給前の六四歳までの二年間
右の二六七万四三九一円に、生活費を四〇パーセント控除し、六三歳から六四歳までの二年間のライプニツツ係数一・八五九を乗じた額である金二九八万三〇一五円と認められる(一円未満切り捨て。以下、同じ。)
267万4391円×0.6×1.859=298万3015円
(2) 国民年金(老齢基礎年金)受給後の六五歳から就労可能な平均余命の約二分の一の間までの七年間
二六七万四三九一円と六〇万五〇〇〇円の合計三二七万九三九一円に、生活費を四〇パーセント控除し、九年間のライプニツツ係数七・一〇七から二年間のライプニツツ係数一・八五九を減じた五・二四八を乗じた額である金一〇三二万六一四六円と認められる。
327万9391円×0.6×5.248=1032万6146円
(3) 就労可能年齢である平均余命の約二分の一の期間を超えた後、平均余命までの九年間
右の六〇万五〇〇〇円に、生活費を六〇パーセント控除し、一八年間のライプニツツ係数一一・六八九から九年間のライプニツツ係数七・一〇七を減じた四・五八二を乗じた額である金一一〇万八八四四円と認められる。
60万5000円×0.4×4.582=110万8844円
(4) 合計 一四四一万八〇〇五円
2 慰謝料 二二〇〇万円
証拠上認められる諸事情に鑑みると、本件における慰謝料は二二〇〇万円が相当と認められる。
3 小計 三六四一万八〇〇五円
原告らは、右損害賠償請求権を各二分の一ずつ相続したので、原告らの損害額は各一八二〇万九〇〇二円である。
二 原告光子の損害
葬儀費用 一二〇万円
甲一によれば、原告光子が、訴外宏の葬儀費を支出していることが認められるが、本件と因果関係の認められる損害は一二〇万円と認めるのが相当である。
三 損害てん補 三〇〇〇万円
訴外宏の死亡に伴う損害のてん補として、原告らが、自動車損害賠償責任保険より三〇〇〇万円の支払いを受けたことは、当事者間に争いがないので、原告らは、各二分の一の一五〇〇万円ずつ、損害のてん補を受けたと認められる。
四 合計
1 原告光子 四四〇万九〇〇二円
2 原告櫻井 三二〇万九〇〇二円
五 弁護士費用
本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、弁護士費用は、原告光子につき金四四万円、同櫻井につき金三二万円が相当と認められる。
六 合計
1 原告光子 四八四万九〇〇二円
2 原告櫻井 三五二万九〇〇二円
第四結論
以上の次第で、原告らの本訴請求は、被告仲間に対し、原告光子に対し、金四八四万九〇〇二円、同櫻井に対し、金三五二万九〇〇二円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを、被告日動火災に対し、原告らの被告仲間に対する判決が確定したときは、原告光子に対し、金四八四万九〇〇二円、同櫻井に対し、金三五二万九〇〇二円及びこれらに対する平成五年二月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。
(裁判官 堺充廣)